手相、そして、運命
「34~35歳にかけて、仕事運が薄くなってるねぇ」
「エッ…失業ですか…」
「子育てをしてるってことよ」
***
生まれて初めて手相を見てもらった。
前々から興味はあったものの診断料を調べると、60分4万とか2万とか恐ろしい金額で、手がでなかった。
それに、お金を払うなら「当たる」と口コミが多いところに行きたいし…。
でも、昨日の私は、お金のことは二の次にして、将来のことを知りたかった。
ネットで手相を見ても、よく分からない。
男女で右手と左手、見る手が違う、だとか、両手を組んで親指が上に来る方を見る、だとか。
手のひらを見ると、両方とも「て」と書いてあった。
みんな「手」には「て」があるのだ、と思っていたら、生命線と知能線が離れている人もいるらしい。
ネットに書いてあることを信じるとすると、
私は3人の人と結婚に結びつく出会いをして、一人の人と結婚する。
年齢は30代~40代にかけて、と見えた。
「そうか、私は結婚するのか」
最近薄くなってきた結婚線を見つめながら思った。
***
新宿の、鳳占いやかた(http://www.hou-uranai.com/)に行った。
21時までの営業と書いてあったし、代金も1000円だったから。
20時までは久しぶりに中国整体を受けるので、その後でも十分間に合うだろうと思ったが、意外にも混んでいた。
10分ほど外で待ち、室内へ入ると、中学校の時の音楽の先生によく似た女性がいた。
目の前に座り、年齢と住んでいるところを聞かれた。
何が知りたいのか、を聞かれる。
私は、何が知りたくてここに来たんだろう?
数秒間、頭のなかで考える。
将来について、仕事がうまくいくか、転職がうまくいくか、別れてしまったあの人のこと、結婚について、病気は?入ってくる可能性のある遺産は…?
「全体的に…」
初めて手相を診てもらうことを言うと、先生が両手のひらを見て、
「体はすごく強い」
と仰った。
「子供のころは弱かったです。今も強いかどうかは…小児喘息だったので」
私が告げると、また私の手のひらを見る。
右手を中心に見ているようだった。
「気管支は弱いです、風邪も鼻やノドからかかる、どう?当たってる?」
そう聞かれて、私は曖昧な笑みを浮かべた。
鼻やノドから来ない風邪、が想像できなかったから。
「すごく慎重派、石橋を叩いて渡るタイプ」
そうなのかな、そうかもしれない。
でも、突飛な行動を取る時もある。考えてないわけじゃないけど、他の人から見たら
「何をしているの?」と思われることも多いかもしれない。
そして、先生が見つけた結婚線の上のボールペン。
「あ、友達が書いてくれて…」
「それは良い友達を持っているね」
本当は、自分で書いた結婚線。
結婚したいわけじゃない、でも誰とも運命が繋がっていないのが悲しかった。
誰とも繋がっていない。
あんなに好きだったあの人も、あんなに好いてくれたあの人も、みんな私の元から居なくなった。
「恋愛に対しては、熱しにくく冷めにくい。情け深いね」
そうだろうか、一目惚れだが多いと思っていたけど。
でも、友達として、長く話していた人と付き合うことが多いかもしれない。
熱しにくく冷めにくい……土鍋か。
体型も確かに土鍋っぽいけれど。
また、右手。
カンザシのようなもので線をなぞられるとくすぐったかった。
「34歳~35歳にかけて、仕事の線が薄くなってるから、子育てをしていると思う」
「子宝の線も出ているし」
仕事、してないのかなぁ。
「失業ですか?」
私は思わず聞いた。
シングルマザーで誰かの子供を育てているところを、
安普請のアパートで、子供の泣き声にイライラしながら、
隣の部屋や上の部屋の人からいつ苦情が来るんだろうとビクビクして、
気を使いながら小さくなって朝から晩まで、
髪を振り乱して、服も買えずに、自分で髪の毛をカットして…?
「違うわよ、ちゃんと子供の運が出ているから、子育てしてるわ、きっと」
私はこれから誰と繋がるんだろう。
誰と知り合うんだろう。
「あの…」
手相で未来が分かるなら。
「別れた彼と復縁したいんです」
こらえていたものが、喉の奥や目頭からあふれた。
初めての人の前で、臆面もなく泣いた。
「今はお付き合いしている人はいるの?」
「あ、別れてしまって…」
「何年くらい付き合ったの?」
「二年くらいです」
出るなよ、涙。
下腹に力を入れて、こらえる。
嗚咽はもれない、女優みたいに、見開いた目で涙だけポロポロ出る。
そういう泣き方しか出来ない。
声を挙げれば、殴られた。
「その人とまた一緒になれるかは分からないの、手相は変わるものだから」
「…そうですよね…」
「前を向いていれば、いい縁が出来るから、前だけ見て進むのよ」
お母さんみたいなことを言う。
前だけ見て生きていきたい。
後ろ向きに前向きな私。
表面では平気な顔をして、心はズタズタなんだ。
元カレに未練タラタラで、今も考えていて、
女々しくて、情けなくて、こんな私、嫌いだ。
「もう、出会ってますかね?」
数人、男友達の顔を想像する。
でも、その人達との未来は考えられなかった。
「そうねぇ、熱しにくいからねぇ」
一度切れた線を、結び直したい。
でも、今は自分のやるべきことはそんなことじゃなくて、
少しでも綺麗になって、頭も良くなっていたい。
***
「あら、ご先祖様が強いわね」
涙がスッと引っ込む。
強い先祖。
…。
恐らく、ひいおじいちゃん。
私が生まれた頃にはすでに亡くなっていたけど。
酒が強くて、下戸の母をザルに変えたひいおじいちゃん。
何かと言うと酒とジジイというエピソードが出てくるひいおじいちゃん………。
「すごく守られてるわよ~」
たぶん、まだお母さんについている。
私は酒が好きじゃないから、お母さんに帰っていったんだろう。
私はものすごい量を飲むけど、酔えないし、飲まなくても酔っ払っているみたいに見える。
酒飲みとしてはつまらないかもしれない。
「あ、これはね、強運、両手に出てるでしょ」
生命線と頭脳線と運命線と感情線が、Mの字を描いている。
「だから大丈夫なのよ」
「ありがとうございました」
「彼氏ができたら連れていらっしゃい」
Mの字が、何だか分からなくて、帰宅して調べてみた。
http://love-tesou.com/lucky.html
わあ、なんだか凄いじゃん。
望んだものを引き寄せるとか。
少し気分が浮上した。